LISA SOMEDA

夜空 (7)

ひとつ星の欠けたオリオン座。

 

まだ夜も早い時間、低い空に見えるのは、
ひとつ星の欠けたオリオン座。

星座を知っている、ただそれだけで、
見えないけれど、もうひとつの星の存在を、
そしてそれがまだ地平線のしたにあることを、想像することができる。

見えないものを想像すること。

そうすると、すこし意識がゆさぶられて、
ただ、目の前にあるものを受け入れるだけじゃなく、
自分とその周辺がもっと大きな宇宙の営みのなかにあることが感じられる。

覚えるのが苦手だったから、
星の名前も、星座もほとんど覚えていないけれど、
ひとつ星座を知るだけで、世界の様相ががらりとかわる。

世界がぐんと広くなるスイッチ。
知識って、きっとそういうものなんだと思う。

きちんと贅沢に生きているのかもしれない。

 

18時の星がもうすでにくっきり。
つい目を離せず、星を追って歩くみち。

街路を彩る金色の落ち葉。
いちょうの木がこんなにたくさんの葉っぱでくるまれていたなんて。

ささやかだけど、たいせつなこと。
そういうもののつみかさねで、人生をまっとうできたら良いな、と思う。

多くは望まないと決めたけど、
きちんと贅沢に生きているのかもしれない。

叶ったらいいな、が、ほんの少し。

 

結局、深夜に外にでる口実ほしさ半分で、午前4時の再入稿。

寒くなると夜空が澄んで、
東の空のひときわ明るい星にこころを奪われながら、
なかば徒歩、なかば自転車の道程。

ひらけた場所で空を見上げる。
視界の端でとらえる流星。
流れたな、と思うのでせいいっぱい。

数年前の切羽詰まった気持ちはどこへやら。
いまは、叶ったらいいな、が、ほんの少し。

腕時計

 

午前2時の空。
星たちの確かな輪郭。もう冬は間近。

大学のころは、いつもこんなだったな、と思い出す。
作業自体は、それはそれは大変なんだけど、
深夜、天空に星を確認しながら、自転車で帰宅するの、けっこう好きだった。

目が覚めて、腕時計をしたまま寝てたことに気づく。
なんぼ忙しくても、それはないよね。

すこしいびつな月の高らかに輝くさま

 

仲秋の名月。

雨上がりの空は、しんと澄んでいて、
ひらけたところで月を見上げてから帰ろうと思っていたら、
ともだちが、おだんごを持って作業場に顔を出してくれた。

扉をあけたら、ちょうど良い位置に月がお目見え。
ベランダわきに腰をかけ、
すこしいびつな月の高らかに輝くさまを見上げて、お月見。

遠くの星のかすかなきらめきまで届いていたから、
これから転がり落ちるように、気温が下がる。

気がついたら、過ぎた季節をふりかえるところまで来ているんだ。

25時の散歩

 

結局、帰宅は深夜になって。

帰りみち、見上げた空の星の多さについ、
機材を一旦家に置いて、25時の散歩に出かける。

引越してから、夜空を見あげることが少なくなった。

街中は明るくて、暗いところを探すようにふらふら歩き、
銅駝のほうから鴨川に出ると、唐突にひらけた空に、大きく赤い月。
三日月ほどに欠けているのにどうして。

はじめてみる月のその風情に、狼狽。
この月に呼ばれたのかと思うと、こわくなった。

元旦、午前0時の星空は明晰だった。

 

元旦、午前0時の星空は明晰だった。

思いがけない瞬間に、ものごとの本質にさらっと触れるようなこと、めっきり少なくなった。日常の些事に埋没して、感覚が鈍ってきているのかもしれない、という危機感。

鋭利でありたい。