京都に帰りたい、と、
一心に願う。

離れてみてはじめて、あの街は、街自体が文化なのだ、と判る。

はやく京都に帰りたい。

桜の季節が去ると、大家さんが大切に手入れしている藤棚が紫色に染まり、しばらくすると蛍の季節を迎える。祇園、大文字と街が観光客でごったがえすのを脇目で確認しているうちに、ふと秋風がほほを撫で、紅葉の季節がやってくる。

おだやかな陽射しのなか川べりで本を読んだり、近くで汲んできた湧水で美味しいコーヒーをいれたり。なにより、急かされずにものごとを考えられるだけの、ゆったりとした時間の流れがそこにはあった。

そういうかけがえのないものを、わたしはいとも簡単に手放してしまった。
ここには過剰なほどなんでもあるけれど、大事なものはまだ何も見つからない。

桜を見ると京都を想ってしまうから、
今年だけは、桜を見たくなかった。