ひこうき雲が徐々にただれ、流されながらとけていく。

そういうゆったりとした時間は、もう明日には失われるんじゃないかという不安に突然襲われることがある。時間とのかかわり方の最終的な決定権は自分の手中にあるはずなのに。

しかし母は言う。
「わたしたち、年寄りが急くのはね、死ぬまでの残された時間を意識するからなのよ。あなたたち若い人は、まだいくらでも時間があると思ってる。」

親の世代がせわしないのは、ひとえに高度成長期を生き抜いてきた人々に特有の「ハヤさ」なんだと思っていたし、だからこそ、他人ごとで済ませていた。何かにつけ、両親からせかされ、うんざりしてきたというのもあると思う。

そう言われるまで、「残された時間」なんてことに思い及びもしなかった。
自分とは違う人生の季節を生きる親の目にうつるのは、自分とは違う景色なんだと思い知る。

もう少し寄り添って耳を傾けてみようかな。