哲学の道に寄った帰り、自宅の斜向いの大家さん夫婦が、
娘さんらしき女性を送りだしているところに出くわす。

家族のたいせつな時間。なんとなく、邪魔したくなくて、
知らない人間のように声もかけずにそっと通り過ぎる。

角を曲がったところでしばらく待って、ころあいはかって引き返すと、
まだ奥さんが、遠ざかる娘さんの背中を心配そうに見守っていた。

歩きながらイヤホンを耳にさそうとしている娘さんとはうらはらに、
身を乗り出してじっと見守る奥さんのその姿があまりに切なくて、
挨拶もできずに家の前を通り過ぎる。これじゃまるで不審者だ。

二度目の立往生は、揺さぶられてしまったこころの後始末。