寺町を自転車で通り過ぎようとしていたところ、坂井さんとすれ違う。
一見の客なんて覚えてないだろう、と思ったら、
すぐにわかったようで、声をかけてくださった。
そりゃそうだ。
わたし、そのとき、彼のつくったふくを着ていたのだもの。
自分のつくったふくを着ているひととすれ違ったら、そりゃ、わかるやろ…。
お店の外で、着ているふくをつくったご本人と対面するという状況は
ちょっと気恥ずかしい。
追い打ち。
新しい店舗がガラス張りなのを良いことに、
外からうっとりふくを眺めているところを、目撃されていたそうな。
メンズラインばかりだし、
クールな店内にはなかなか入る勇気がなかったの。と、こたえたら、
「僕のいるときに来たらいいよ。」
と、やさしく微笑む。
頑固で筋のとおったふくづくりをされていて、相当気難しいであろうそのひとが、
やさしく微笑んでくれるのが、ちょっと、いや、すごく嬉しかった。
男物で、そのうえかなりハードなのに、
つい、お店の前でぼうっとしてしまうくらい、吊られているふくが美しい。
吊られた状態の造形が美しいと思うふくは、そうは多くない。
ふだんはそんなこと思わないのだけれど、
このときばかりは、男に生まれたかったと思う。