「そのコップかわいいね。」と言うわたしにFはこたえる。
「これ、100均のコップやねん。」
つい、100均のわりにかわいいコップやろ、という話かと思ったら、
「小学生の弟がな、誕生日に買ってくれてん。小学生にとってはな、100円は大金やねん。」
その小さなガラスコップは歯みがきセットの受けになってて、いつも彼女はたいせつにそのコップを持って食後の歯みがきに行く。

「バレンタインデーに、女子からパーティーをしてもらったのはいいんですけどね、そのお返しにゴディバのチョコレイト、2個入りのんが800円もするの、6つ買ったら、お財布なくなりました。」
Mが言う。お財布の中身がなくなりました、ではなくて、お財布なくなりました、というあたりに実感がこもっている。

「あの日、ダムタイプのS/N見てレクチャー聴いて、ひとがひとを好きになることとかけっこういろいろ真剣に考えさせられたんですよ。でも、その帰り、電車乗るときに、藤原紀香と陣内の結婚の話をともだちから聞かされて、そのふたつの出来事のあいだで、僕どうしたらええんかわからんかった。あの日はそういう日だったんです。」
とはS。

いずれも学生の話で、ふとした機会に見せてくれるこまやかさや温かさ。
かわいいなぁの一言に縮約するには、あまりに彩りがあって。
そういうものに、わたしは少なからず救われていたんだと思う。